第5回 ジェンザイム・ライソゾーム病セミナー

概要

 ジェンザイム・ライソゾーム病セミナーは、ジェンザイム・ジャパンが主催する、ライソゾーム病患者と家族が、病気に関する最新の医学情報を得ると同時に、情報交換するための集まりです。ライソゾーム(リソソーム)病とは、細胞の中のライソゾームと呼ばれる部分で行われるはずの代謝の異常によっと起きる疾患の総称です。

 当初はジェンザイム社が治療薬(セレザイム)を提供しているゴーシェ病患者を中心としたセミナーとしてスタートしましたが、その後、治療法の確立していないものもも含めたライソゾーム病一般に対象を広げています。ライソゾーム病(ライソゾーム蓄積症=lysosomal storage disease;LSD)には、すでに酵素療法が確立しているゴーシェ病の他に、治療薬の認可が見えてきたファブリー病、ポンペ病、ムコ多糖症、まだめどのたっていないMLD、MSD、クラッベ病、ニーマンピック病などがあります。

→ライソゾーム病一覧

参加

 いままで、新しい治療法の確立や新薬の開発は医師や製薬会社など医学界の専門家によって進められ、最新の情報を得たいという患者やその家族がじゅうぶんな情報を得る手段はほとんどありませんでした。同時に、先天性代謝異常症のような、ひとつの疾患の患者数が国内で数人から数百人といったレベルの疾患の場合、研究者が患者の状況やニーズについて情報を得る機会もきわめて限られていました。

 ライソゾーム病セミナーは、患者・研究者・製薬会社が協力して、病気と闘っていくことを当初から目指していました。セミナーの中心は専門医による研究発表ですが、これはいってしまえば、学会向けの学術発表を一般向けにわかりやすくアレンジしたものです。先天性代謝異常症のような稀少難病はそれだけを扱う学会もないので、全国の専門医によるライソゾーム病の最新情報をいちどに聞く機会は非常に重要です。

 主催者のジェンザイムも、いままで英語の発表に同時通訳をつけたり、託児サービスを用意したり、患者の参加の宿泊費・交通費を援助するなど、サポートしてくれています。そのため、ライソゾーム病セミナーは、参加者個人個人が自分の病気について学ぶ場としてだけでなく、同じ病気をもつ家族、似たような症状をもつ別の病気の家族と交流し、情報交換し、ネットワークを作り上げていくための場所としても大きな役割を果たしてきました。

 セミナーの合間を縫って、あるいは前日や当日夜に、いろいろな形で患者の家族同士の交流が行われています。こういう情報交換は必ずしも表に出てきませんが、孤立しがちな稀少難病、先天性代謝異常症の患者の家族にとっては大きな意味があります。たとえば、このサイトの「先天性代謝異常症掲示板」もセミナーのあとにぎわってます。話題はライソゾーム病ではないのですが、実はライソゾーム病セミナーのようなイベントがあると、関係者の情報交換が活性化され、その結果思っても見ない形の交流が進むことがよくあります。そこで生まれた交流をもとに、新たな疾患情報ホームページができたり、患者の会が生まれたりしていますから、ライソゾーム病セミナーが日本の先天性代謝異常症患者の組織化に果たしてきた功績は非常に大きいものがあると思います。この場を借りて関係者のみなさんに改めて感謝します。

 なお、過去のライソゾーム病セミナーについては、第2回(1999)の資料がこのサイトにあります。

レポート

■参加者

 ここのところ、ホームページの更新も怠り、患者の会活動も手抜きだった私は、前日の午後大阪に向かいました。ちなみにポンペ病は日曜午後に始まるライソゾーム病セミナーにあわせて、土曜、日曜午前に独自の会合を組織してます。土曜はぽぽさん(このサイトの掲示板の古くからの常連でゴーシェ病関係者)の家に泊めてもらいました。今回、このサイトの関係者としては首都圏からは私のほかに、まりあママ(GM1ガングリオシドーシス)、めがぽん(ゴーシェ病)が参加。あいこう(ALD)は直前にお子さんの体調不良で残念ながら参加取りやめということでした。

 大阪組としては、ドナっ子ママ・パパ(ペリツェウス・メルツバッハ)、しおりはは・ちち(ニーマンピック)、かおりん(ゴーシェ)、Sさん(ALD)などが迎撃。厳密に言うと、ペリツェウス・メルツバッハ病やALDはライソゾーム病とは言えないのですが、ロイコジストロフィー患者の会は早くからこのセミナーに入り込んでることもあって?特例参加です。

 セミナーの参加者は200人程度で、発表者をのぞくとほとんどが患者とその家族です。会場では名札の色で、ゴーシェ病、ファブリー病、ポンペ病、その他と分かれていましたが、やはり治療薬が具体化しているということで、ファブリー病、ポンペ病関係者の数が多いという印象を受けました。研究者では、私の気がついた範囲では地元の阪大の代謝異常関係の先生が(発表とは関係なく)何人も見えていました。

■ファブリー病の病体解明と治療法開発に向けて / 東京都医学研究機構  桜庭均 先生

 ファブリー病とその最新治療法に関する概説的な内容でした。ライソゾーム病セミナーは一般向けといっても、内容は学会発表とあまりかわらないことが多いのですが、そうすると医者なら当然知っている知識ははしょられがちです。今回のセミナーでは、そこまで説明する、つまり一般の人に対するプレゼンテーションを十分意識した発表が多かったと感じましたが、桜庭先生の発表も内容が高度であるにもかかわらず、わかりやすいものでした。

 内容的には、ジェンザイムが手がけているチャイニーズハムスター卵巣細胞による酵素生産と、酵母を使った酵素生産の比較など、治療薬の開発・製品化に関する具体的な技術にまで内容が及んでいることが印象的でした。

■ライソゾーム病に対する酵素補充療法 現状と今後の展望 / 東京慈恵会医科大学 井田博幸 先生

 ゴーシェ病を中心に酵素補充療法の歴史と現状を非常にわかりやすくまとめた内容でした。すでに実用化の段階になっているゴーシェ病に関しては、最適な投与方法と医療費の問題、酵素補充療法があまり効果がないといわれる中枢神経症状への取り組みなどが説明されました。同じ酵素製剤(セレザイム)を使って海外ではまったく違った投与方法が行われている(低容量頻回投与)といった点が新しい話でした。

 ファブリー病については、いままでの臨床治験の結果が発表されました。硬直、発熱といった副作用がでることが多いこと、統計的に有意な効果がでていることなどが報告されました。ちょっと変わった情報として、ファブリー病で問題になる疼痛に関して、酵素製剤投与群とプラシーボ群がともに状態の改善を示し、統計的に意味ある結果が出せなかった、という報告がありました。これに関しては、追加質問もあり、理由としては「薬を使っている」という安心感が痛みを和らげるのだと思われること、発表した臨床治験のデータはジェンザイムのファブリザイムのものであり、同様にファブリー病の酵素補充療法の治験を行っているTKT社のデータでは統計上有意な差がでた、という説明がありました。余談ですが、ファブリー病に関しては国内での治験も始まっており、ジェンザイムとTKT(住友製薬)の2社が開発中ということもあり、セミナーの講演以外にいろいろな情報提供(特にジェンザイムから)がありました。

 ムコ多糖症I型、ポンペ病に関しても治験の結果、酵素補充療法の効果は出ていて、新薬の認可は順調に進んでいるようです。ポンペ病に関してはCRIM(Cros Reacting Immuno Material)=交叉反応性免疫物質の問題が指摘されていました。

□現在の酵素補充療法の状況をまとめると次のようになります。

 

Pre-clinical

Phase I/II

Phase III

薬剤認可

臨床治験

海外

日本

ゴーシェ病

終了

終了

MPS-I(ハーラー・シャイエ)

ファブリー病

☆*

MPS-II(ハンター)

ポンペ病

ニーマンピックA/B

MPS-VI(マロトー・ラミー)

                                     ☆* ヨーロッパ

□ライソゾーム病の酵素補充療法における免疫反応

  抗体発生率 副反応 補体活性化 治療効果に対する抗体の影響
ゴーシェ病 12% (n=112) なし なし なし
ファブリー病 80% (n=58) 軽度〜中等度 なし なし
ポンペ病 67% (n=3) 軽度 なし あり
MPS-I 100% (n=10) 中等度〜重度 あり なし

(2002.8.4)


続きはまた後日


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