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第4回リピドーシス研究会 〜MLD患者の家族の視点から〜

lipidosis.jpg (13827 バイト) 1998/7/9-10、MLDを含むリピドーシス(脂質蓄積症)の学会とシンポジウムがありました。ここでは、骨髄移植、遺伝子治療などに関する世界最先端の研究が発表され、また、MLD以外の疾患に関する発表も、今後、MLDの治療法の確立をめざす上で多くの示唆を含んでいました。研究会の発表内容とそのレポートを別ページで紹介しましたが、ここでは研究会全体を通して見えてきた、MLD研究の現状と今後の課題を簡単にまとめてみます。

1) MLDに直接関係する発表

 大きく分けて「MLDの遺伝子変異のタイプ(遺伝子型:genotype)と臨床症状(表現型:phenotype)の関連」「動物実験レベルの遺伝子治療」「骨髄移植の効果」「臨床症状の検討」の4つの発表がありました。この中で骨髄移植に関しては従来のクリビット先生の研究の延長であり、新しい情報はありませんでした。臨床症状の検討については、消化器系への障害について新しい方向性が示されましたが、これは起こりうる症状を指摘したものにとどまり、治療や対応の指針を示したものではありませんでした。
 遺伝子治療に関しては着実にデータを積み重ねているという印象は受けましたが、技術的には臨床への応用という点でやや行き詰まりを見せているという印象です。もっとも、ゴーシェ病やFabry病に関しては、遺伝子治療が臨床レベルで実験段階に入っており、先天性代謝異常症全般に対する遺伝子治療は、確実に現実の段階に入ったと実感しました。遺伝子型と表現型の関連は直接、患者の治療に結びつくものではありませんが、MLDという疾患をより厳密に理解していくことに意味があり、また、患者による症状の進み方の違いを事前に予測することによって、家族が生活の計画を立てやすくなることが期待できます。

2) 公開討論会

 今回のリピドーシス研究会では、「患者さんとの公開討論」として、ゴーシェ病、Fabry病、その他のリピドーシス(MLD含む)の3つのセッションで、患者の家族からの疑問に来場の研究者が答える場が用意されました。ほとんどの患者の家族は、主治医を通してのみ疾患の情報を得ており、また、日本の医療の現状からいっても、フランクな人間関係の中で十分な時間をかけてそれを行うことが難しい場合も多々あります。このような場で、世界の第一線の研究者が、公開の場で疑問に答えるというのは、その意味で非常に大きな意義があります。逆に、医者の立場から言えば、遺伝子病という特殊な状況もあり、患者サイドからの十分なコンセンサスがなければ治療はもちろん、研究もすすめにくい状況があります。その象徴が遺伝子診断や遺伝子治療で、これは医学界と患者、患者の家族が一体となって手順を踏んで社会的コンセンサスを確立して行かなくては実現しません。たとえ治療法が技術的に確立しても、それがなくては実際に治療を行うことはできないのです。今回の公開討論でも、ゴーシェ病の患者団体から遺伝子治療に関するアンケート調査が発表されましたが、治療法が確立されたら即座にそれを利用できるようにするためには、このような患者と医学界の連携は不可欠であると感じました。たとえば、MLDの酵素補充療法が実用化されたとして、それに年間数千万円かかり、しかも保険が利かないとなったらどうでしょうか。患者の数もわからない、患者団体もない、MLDの治療に関わる医者同士の連絡がない、という状況だとしたら、それが改善されるには長い時間がかかるでしょう。このあたりの必要性は、ゴーシェ病のような治療法が数種類実用化されている疾患の現状を知るにつれ、強く感じるようになりました。

3) 骨髄移植

 今回の研究会でも、MLDの現時点での治療法としては骨髄移植しかなく、しかもそれは非常に限られた条件の場合であるということが繰り返し強調されました。MLD患者と家族の会(設立準備室)としては、この骨髄移植の現状について公開討論の場で質問を行いました。個人的には、この分野の第一人者であるクリビット先生は、特に骨髄移植が有効と思われる患者の条件について、非常に厳しい見方をしていると感じました。一方、国内では既に数件のMLD患者、MSD患者への骨髄移植が実施されているわけですが、いずれも良好な成果を収めなかったと言われています。言われています、というのは、失敗例は学会で発表されることがあまりないからです。しかし、患者の家族としては、今後、失敗例についても知りたいと思います。これは骨髄移植以外にも言えることで、過去のMLD患者がどのような合併症を起こし、それに対してどのような治療が行われたか、という情報が必ずしも明らかにされていないという状況を、患者サイドからできる限り改善していきたいと感じました。
 もう一つ。骨髄移植の実施を考えると、最重要項目は「神経症状が出る前に診断を行うこと」。しかし、現状ではさまざまな要因でこれは不可能に近いのが日本の現状です。このことは、米国では既にそういう患者の骨髄移植が多数行われているのに対して、日本ではまったく例がない、ということでもあきらかです。今後新しく患者になる子供たちのことを考えると、早期発見のシステムが完備されることを強く願わざるをえません。

4) 中枢神経症状の治療

 リピドーシスの中には中枢神経(脳)への障害を症状としてもつものも多いのですが、今回の発表を聞く限り、脳内の治療に関しては(骨髄移植をのぞけば)いまのところお手上げに近いと感じました。これにはまず脳内の症状の進行を止める手段がない、ということがあり、また、止めたところでダメージを快復する手段がないということです。幸いにしてというのか、MLDなどの白質ジストロフィーの場合には症状が中枢神経に集中しますが、他のリピドーシスでは肝臓とか骨とかに症状が出るものが多く、リピドーシスの治療というものも、中枢神経症状の改善はあきらめて、それらの他の臓器の障害を改善することを目指す、という方向性のようです(現状では)。研究レベルで成果をあげようとすると、どうしてもそうならざるをえないでしょうが、MLD患者の親としては、たとえ成功の見通しが見えなくても、誰かがこの部分に集中的に取り組んでもらわないと困ると感じました。特に、今回の研究会は、基本的に基礎医学分野の最先端の研究者が中心で、そういう意味では現実の患者が目の前にいて、いまできる範囲で何ができるか、という判断を迫られる臨床医とはやや立場が違うと言えるでしょう。これも中枢神経症状に限りませんが、遺伝子治療や酵素補充療法のような根本的な治療法と並んで、現在の技術でどのような対症療法が効果的か、といった研究も誰かに勧めてもらわねば困ると感じます。


jl_friends.jpg (44565 バイト) 会場では、MLD HomePageの読者のお母さん達とも会えました。右端がふーたん。お友達2人はMLD以外の先天性代謝異常症です。


 (1998/7)


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